
【オススメ5選】SES営業向けシステム開発の工数見積もり手法
過小評価によるコストオーバーや納期遅延リスクを回避するためにも、開発規模に応じた適切な見積もり手法を選択する必要があります。
本記事では、SES営業に限らずSESエンジニアも現場で活用できる、システム開発の工数見積もり手法を5つご紹介します。
それぞれの見積もり手法の特徴や活用シーンを把握し、案件の規模や性質に合わせて使い分けることで、より精度の高い見積もりが可能です。
システム開発の企画から運用フェーズまで、各段階で必要な工数を漏れなく見積もれるよう、実務に役立つポイントを分かりやすく解説していきます。
1. 類推見積もり.
類推見積もりは、過去の類似プロジェクトの実績データから、新規プロジェクトの規模や工数を推定する手法です。
この手法は比較的簡単で、直感的に理解しやすいため、SES営業の初心者にもおすすめです。
◆類推見積もりの手順
1.過去に遂行した類似プロジェクトを選定する
2.類似プロジェクトの規模(機能数、ソースコードの行数など)と実績工数を確認する
3.新規プロジェクトの規模を推定する
4.規模に応じた工数を類似プロジェクトから類推する
例えば、過去に10,000行のWebシステムを構築した際の工数が120人月かかったとします。
仮に新たに20,000行のWebシステムを受注する案件があれば、規模は約2倍なので、工数は240人月前後と見積もることができます。
類推見積もりの長所は、過去実績に基づいているので納得感があり、クライアントに説明もしやすい点です。
一方で、プロジェクト特性の違いを正確に反映できないことが短所です。
そのため、不確定要素が多いプロジェクトの場合は注意が必要です。
2. パラメトリック見積もり.
パラメトリック見積もりは、プロジェクトの特定の要素やパラメータに基づき、統計的手法や数学的モデルを使用して見積もりを行う手法です。
例として、開発する機能の数やコード行数、必要な作業時間などに基づいて見積もりします。
この手法は、過去のデータと統計的な関係を利用して、より正確な見積もりを行うことができます。
詳細なデータが揃っている場合に特に有効であり、プロジェクトの計画や予算設定において重要な役割を果たします。
◆パラメトリック見積もりの手順
たとえば、過去のプロジェクトで、1機能あたりの開発時間が平均20時間であったとします。
さらに機能の複雑さにより、標準の開発時間に1.5倍の時間がかかる場合もあると見積もります。
今回のプロジェクトで、追加する機能が10個あり、そのうち2つが複雑な機能であるとします。
この場合、見積もりは以下のようになります。
・通常の機能の開発時間: 8個 × 20時間 = 160時間
・複雑な機能の開発時間: 2個 × 20時間 × 1.5 = 60時間
合計の開発時間: 160時間 + 60時間 = 220時間
類推見積もりとの違いは、過去データが存在するかどうかであり、以下のような違いがあります。
1.基本アプローチ
類推見積もり…過去の類似プロジェクトのデータを使用
パラメトリック見積もり…数学的モデルや統計的手法を使用
2.見積もりの精度
類推見積もり…中程度(経験に依存)
パラメトリック見積もり…高い(詳細なデータに依存)
3.必要なデータ
類推見積もり…過去のプロジェクトデータ
パラメトリック見積もり…特定の要素やパラメータの詳細データ
4.利便性
類推見積もり…高い(迅速かつ簡便)
パラメトリック見積もり…低い(データ収集と解析が必要)
5.使用シーン
類推見積もり…初期段階の大まかな見積もり、過去の類似プロジェクトが多い場合
パラメトリック見積もり…詳細な見積もり、データとモデルが揃っている場合
3. ボトムアップ見積もり法.
ボトムアップ見積もり法は、プロジェクト全体の作業工程を詳細に分解し、各作業に必要な工数を個別に見積もり、それらを積み上げていく方法です。
◆ボトムアップ見積もりの手順
1.プロジェクトを作業単位(WBS)まで詳細に分解する
2.各作業項目に必要な工数を見積もる
3.項目毎の工数を積み上げ、全体の工数を算出する
4.付加的コストを加算し、最終的な見積り工数を決定する
例えば、「顧客システム移行作業」の工程では、以下のような作業項目があり、それぞれの項目に要する工数を見積もったとします。
要件定義: 10人日
基本設計: 15人日
詳細設計: 20人日
プログラミング: 40人日
単体・結合テスト: 15人日
総合テスト: 20人日
これらを積み上げると作業工数は120人日となり、さらにこれにリーダー割り増し20%、品質保証・プロジェクト管理20%を加えると、最終的な見積り工数は176人日となります。
ボトムアップ手法の長所は、各工程の作業内容を詳細に検討できること、見積りの精度が高いことです。
一方、作業分解が大変な手間がかかるのが短所です。
4. ファンクションポイント見積もり.
この見積もり手法は、提供されるソフトウェア機能の種類と複雑さから、機能の総量をファンクションポイントとして定量化し、その点数に基づいて工数を見積もる手法です。
◆ファンクションポイント見積もりの手順
例えば、シンプルな顧客管理システムで以下の3つの機能があるとします。
・顧客データの入力(外部入力: EI)
・顧客情報の表示(外部出力: EO)
・顧客データの保存(内部論理ファイル: ILF)
それぞれの機能について、種類と複雑さを評価します。
1.顧客データの入力
種類…EI
複雑さ…低
ポイント…3
2.顧客情報の表示
種類…EO
複雑さ…低
ポイント…4
3.顧客データの保存
種類…ILF
複雑さ…低
ポイント…7
次に、各ファンクションポイントに対して規定の重み係数をかけます。
例えば、重み係数が以下のようであるとします。
1.EI
低...3
中…4
高…6
2.EO
低...4
中…5
高…7
3.ILF
低...7
中…10
高…15
計算結果は以下のようになります。
1.顧客データの入力
種類…EI
複雑さ…低
点数…3
重み係数…3
ポイント…9
2.顧客情報の表示
種類…EO
複雑さ…低
点数…4
重み係数…4
ポイント…16
3.顧客データの保存
種類…ILF
複雑さ…低
点数…7
重み係数…7
ポイント…49
そして、各ファンクションポイントを合計して、総ファンクションポイントを算出します。
総ファンクションポイント: 9 + 16 + 49 = 74
ファンクションポイント見積もりの長所は、ユーザーの視点に立った機能の大きさで見積もれることです。
一方、機能の分類作業が難しいことや、ファンクションポイント見積もりの訓練が必要なことが短所となります。
5. プライスツーウィン手法.
プライスツーウィン(P2W)手法は、事前に顧客が支払う予定の上限金額を把握し、その範囲内でプロジェクト実施が可能となる最適な作業スコープ・工数を見積もる手法です。
◆プライスツーウィン手法の手順
1.顧客から提示された見積上限金額を確認する
2.プロジェクトの概要から、最低限実施すべき作業スコープを定義する
3.作業スコープに応じた最適な見積り手法を選択し、工数を見積もる
4.見積り工数に作業者単価を乗じてプロジェクトコストを算出する
5.プロジェクトコストが上限金額以内であれば、そのスコープで見積りを提示する
6.プロジェクトコストが上限を超える場合は、スコープを削減し、再度工数と見積りする
7.スコープ削減に伴うリスクを顧客に説明し、合意を得られるまで調整を重ねる
P2W手法のポイントは、顧客の予算上限に合わせてスコープを柔軟に調整できる点にあります。
例えば、顧客から2,000万円の予算提示があり、当初見積もった工数がそれを上回る場合、スコープを一部削減することで予算内に収まるよう調整が可能です。
ただし、スコープ削減に伴うリスクを顧客に正確に説明し、合意を得ることが重要です。
SES営業としては、顧客の予算と要求の両立が図れる最適解を導き出す高い提案力が求められます。
P2W手法の長所は、顧客の予算制約に柔軟に対応でき、受注機会の確保につながる点です。
一方で、スコープ調整の過程で過度にスコープが狭くなり、本来の目的が達成できなくなるリスクも抱えています。
6. まとめ.
本記事では、類推見積もり、パラメトリック見積もり、ボトムアップ見積もり法、ファンクションポイント見積もり、プライスツーウィン手法の5つの見積もり手法を紹介しました。
1.類推見積もり
活用シーン…初期段階の大まかな見積もり、過去の類似プロジェクトが多い場合
メリット…過去実績に基づくため納得感があり、説明しやすい
デメリット…プロジェクト特性の違いを正確に反映できない
2.パラメトリック見積もり
活用シーン…詳細な見積もり、データとモデルが揃っている場合
メリット…詳細なデータを活用するため、正確な見積もりが可能
デメリット…データ収集と解析が必要なため、手間がかかる
3.ボトムアップ見積もり法
活用シーン…プロジェクトの全体像を正確に把握したい場合
メリット…各工程の作業内容を詳細に検討でき、見積りの精度が高い
デメリット…作業分解が大変で、手間がかかる
4.ファンクションポイント見積もり
活用シーン…ユーザー視点の機能見積もりが求められる場合
メリット…ユーザー視点で機能の大きさを見積もれる
デメリット…機能の分類作業が難しく、訓練が必要
5.プライスツーウィン手法
活用シーン…顧客の予算制約が明確な場合
メリット…予算に合わせてスコープを柔軟に調整でき、受注機会を確保
デメリット…スコープ調整により、目的達成が困難になるリスクがある
これらの手法を使い分けることで、SES営業とエンジニアは、プロジェクトの規模や特性に応じた最適な見積もりを行うことができます。
それぞれの手法の長所と短所を理解し、プロジェクトの特性に合わせた適切な見積もり手法を選択することで、プロジェクトの成功確率を高めることができるでしょう。