
SES営業が知っておくべき法律まとめ(労基法・個人情報保護法など)
SES営業はモノではなくヒトを扱うセンシティブな業界です。
そのため、法律やルールの理解が非常に重要となります。
顧客との契約や技術者の労務管理など、多岐にわたる場面で法的知識が求められます。
本記事では、SES営業が押さえておくべき主要な法律や規則について、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
1. 労働基準法(労基法).
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めた法律で、SES営業にとって極めて重要です。
SES営業は、技術者の労働環境や条件について常に注意を払い、顧客企業との契約内容が労基法に違反していないか確認する必要があります。
1.労働時間
労働者は原則として1日8時間、週40時間を超えてはなりません。
時間外労働が必要な場合は、割増賃金(25%以上)を支払う義務があります。
2.休日・休暇
労働者には週に1日以上の休日を与える必要があります。
また、年次有給休暇は、6ヶ月の継続勤務後に最低10日間付与しなければなりません。
3.安全衛生
使用者は労働者の安全と健康を確保するため、定期的な健康診断の実施を義務付けられています。
労働環境における安全基準の遵守も重要です。
2. 労働者派遣法.
SESビジネスは、準委任契約がほとんどで派遣契約は割合として少ないですが、現場での実態が曖昧な場合もあるため、十分な理解が必要です。
SES営業は、契約形態と実際の業務内容が一致しているかを常に確認し、偽装請負のリスクを避けるために努める必要があります。
1.偽装請負の禁止
SES契約下で顧客企業の社員が技術者に指示を出し、偽装請負として行政指導を受けたケースも報告されています。
顧客が直接指示を出すことが明らかな場合は、派遣契約を締結しましょう。
2.期間制限
同一の組織単位に対して派遣できる期間は原則として3年までです。
これにより、労働者の安定した雇用環境を確保することが法律で求められています。
3.同一労働同一賃金
派遣社員が派遣先の正社員と同じ仕事を行う場合、同等の労働条件と賃金を提供する必要があります。
この規定は、派遣労働者の社会的保護と公正な労働条件の確保を目的としています。
3. 個人情報保護法.
SES営業は、技術者や顧客の個人情報を取り扱う立場にあるため、個人情報保護法の理解と遵守が不可欠です。
特に技術者の個人情報については、厳重な管理が求められ、不正利用や漏洩のリスクを最小限に抑えるための対策が重要です。
1.個人情報の取得・利用
個人情報を取得する際は、その利用目的を明確にし、本人の同意を必ず得る必要があります。
また、取得した情報は利用目的以外では使用してはなりません。
2.個人情報の管理
個人情報の管理には、適切な安全管理措置を講じることが求められます。
情報漏洩や紛失を防止するために、アクセス制限、暗号化、定期的な情報セキュリティの点検などの対策が重要です。
3.第三者提供の制限
原則として、本人の同意なく個人情報を第三者に提供することは禁止されています。
例外的なケースを除き、厳格な条件の下でしか情報提供が許されません。
例えば、技術者のスキルシートを本人の同意なく第三者に提供することは、法的に許されない行為です。
4. 下請法(下請代金支払遅延等防止法).
SES企業が大手企業の下請けとして取引を行う場合、下請法の規定が適用される可能性があります。
この法律は、下請け企業を保護し、支払遅延や不公正な取引条件から守ることを目的としています。
SES営業は特に、以下の点に留意する必要があります。
1.発注書面の交付
大手企業は、発注時に明確な書面を用いて下請け企業に対して発注内容を伝達しなければなりません。
口頭での発注は違法とされ、書面での交付が法的に要求されます。
2.支払遅延の禁止
下請代金は、受領した日から60日以内に支払われなければなりません。
この規定は、下請け企業が経営を安定させるために重要な保護措置です。
ある大手IT企業が、SES企業に対して発注書面を交付せず、口頭での発注を行っていたケースがありました。
これは下請法違反として公正取引委員会から勧告を受けました。
3.買いたたきの禁止
下請代金を通常の取引価格よりも著しく低い金額で支払うことは禁止されています。
これは、下請け企業が不当に利益を圧迫されることを防止するための措置です。
5. 著作権法.
SESで開発されたソフトウェアやシステムの著作権に関する理解も重要です。
SES営業は、これらの規定と事例を踏まえ、開発成果物の著作権の帰属について、顧客との契約時に明確に取り決めておく必要があります。
1.著作権の帰属
著作権法において、プログラムの著作権は原則としてその作成者に帰属します。
しかし、職務上作成されたプログラムの場合、法人がその権利を有することもあります。
このため、SES営業は顧客との契約時に明確に著作権の帰属を定めることが重要です。
過去には、技術者が顧客先で開発したシステムの著作権を主張し、別の会社での使用を試みたところ、著作権侵害として訴訟に発展した事例があります。
これは契約上の不明確さから起こった問題であり、明確な契約が重要であることを示しています。
2.著作権の譲渡
著作権を譲渡する場合は、契約書面にて明確に定める必要があります。
譲渡の範囲や条件を明確にしておくことで、将来の紛争を防ぐことができます。
3.オープンソースソフトウェアの使用
SES企業がオープンソースソフトウェアを利用する場合は、そのライセンス条件を理解し遵守することが必要です。
ライセンスの種類によって利用条件が異なるため、適切なライセンスの選択とその条件の順守が求められます。
6. 労働契約法.
労働契約法はSES技術者との雇用関係において重要な法律です。
SES営業は、技術者との契約において、労働条件を明確にし、不当な解雇や雇止めを避けるために注意を払う必要があります。
これらの規定と事例を踏まえ、SES営業は適切な契約管理を行うことで、労働者との信頼関係を築き、法的リスクを最小限に抑えることが求められます。
1.無期転換ルール
有期労働契約が更新されて通算5年を超えた場合、労働者は無期労働契約への転換を申し込むことができます。
この規定は労働者の安定した雇用を保障するために設けられており、SES企業はこの期限を遵守する必要があります。
2.解雇制限
解雇には客観的に合理的な理由が必要であり、社会通念上相当であることが求められます。
たとえば、プロジェクト終了を理由に突然技術者を解雇する場合、その合理性が問われます。
過去には、この法律違反が訴訟に発展し、解雇無効の判決が出されたケースもあります。
実際に、ある企業がプロジェクト終了を理由にSES技術者を解雇しようとしましたが、技術者が労働契約法に基づき、解雇無効を主張して訴訟を起こしました。
結果として、企業は違法解雇と認定され、損害賠償を命じられる事態となりました。
3.労働条件の明示
労働契約を結ぶ際は、労働条件を明確にしておくことが重要です。
給与、勤務時間、休暇などの条件を明示することで、契約当事者間の認識の齟齬を防ぎ、紛争を未然に防ぐことができます。
7. マイナンバー法.
SES企業が従業員のマイナンバーを取り扱う際には、この法律の理解が不可欠です。
ES営業は、自社のマイナンバー管理体制を徹底し、顧客に対しても適切な情報セキュリティ対策を説明できることが求められます。
1.利用目的の制限
マイナンバーは、法律で定められた目的以外での利用が禁止されています。
SES企業は、従業員のマイナンバーを収集する際には、その利用目的を明確にし、従業員からの同意を得る必要があります。
2.安全管理措置
マイナンバーを含む個人情報の漏洩を防ぐため、厳格な安全管理措置が求められます。
データの暗号化、アクセス制限、定期的な情報セキュリティ教育などが必要です。
適切な措置を講じない場合、情報漏洩事故は企業に重大なリスクをもたらす可能性があります。
過去には、ある企業で従業員のマイナンバーが記載された書類が誤って廃棄され、これが個人情報漏洩事故として大きな問題に発展しました。
この事例から、情報管理の重要性と安全対策の重要性が浮き彫りにされました。
3.委託先の監督
マイナンバーの取り扱いを外部に委託する場合、SES企業は委託先の適切な監督責任を負います。
委託先が情報漏洩を引き起こした場合でも、SES企業は法的・経営的な責任を問われる可能性があります。
したがって、委託先の選定と監督体制の整備が重要です。
8. 不正競争防止法.
不正競争防止法は、営業秘密の保護や不正な競争行為の防止を目的とする法律です。
SES営業にとって、顧客情報や技術情報の取り扱いには特に注意が必要であり、不正競争行為を回避することが求められます。
1.営業秘密の保護
営業秘密とは、顧客情報や製品の設計図、製造方法など、企業活動において競争上の有利をもたらす情報のことです。
このような営業秘密を不正に取得し、使用したり第三者に開示する行為は法律で禁止されています。
SES企業は、自社の営業秘密を厳格に管理し、外部への漏洩を防止するための措置を講じる必要があります。
2.誤認惹起行為の禁止
市場での競争を公正に保つため、他社の商品やサービスについて虚偽の情報を流布し、消費者の誤解を招くような行為は禁止されています。
これには、誤った広告宣伝や不当な比較表現の使用も含まれます。SES営業は、正確な情報を提供し、誤解を招かないような営業活動を行うことが求められます。
過去には、元SES技術者が前職で知り得た顧客の機密情報を転職先で使用したケースがありました。
これは営業秘密の不正取得と使用であり、不正競争防止法に違反する行為として訴訟に発展しました。
3.出所混同行為の禁止
他社の商品やサービスと自社のものを混同させるような表示や表示方法の使用も、不正競争防止法で禁止されています。
消費者が誤解を招くような表現や商標の使用は、公正な競争を阻害する行為とされ、厳しく規制されています。
SES営業は、市場での競争を健全に保つために、このような規制に従う必要があります。
9. さいごに.
SES営業にとって、これらの法律や規則の理解は、単なるコンプライアンス遵守以上の意味を持ちます。
法的知識を活用することで、顧客との信頼関係を強化し、トラブルを未然に防ぐことができます。
また、自社の技術者を適切に保護し、健全なビジネス環境を維持することにもつながります。
本記事で紹介した法律や規則は、常に改正や新たな判例の蓄積があります。
そのため、定期的に最新の情報をキャッチアップし、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが重要です。
SES営業として、法的知識を武器に、より安全で信頼性の高いサービス提供を心がけましょう。